26.朝起きたら動物になっていた





アイツの気持ちが知りたい
ただ、そう思っただけ





起き上がる。・・・・・・・・起き上がれない?
手を見る。・・・・・何だこの手は?
鏡を見る。・・・・・映っていたのは俺、でなく。


黒猫だった。




俺どうしたーーー!?
いいいいいいやおおお落ち着け俺・・・・!
何だこの展開は誰が望んだんだこの展開は・・・・!朝起きたら猫だと!?
名前にXを2つ持つ俺が猫だと!?
夢か!?夢なんだなこれは!?

「う゛お゛ぉいボスー?朝だぜー?」

スクアーロ!!つーかノックしたかテメェ。
彼まで出てくるとなると、どうやらコレは夢ではないらしい。スクアーロは部屋をぐるりと見回した。

「・・・・・?いねぇのかぁ?」

ふと下を見れば。
ベッドには脱ぎ散らかされてあるザンザスの服。そして1匹の黒猫。

「・・・・お前、もしかして・・・・」

スクアーロがそのまま猫を抱き上げる。
よし!気付けスクアーロ!!ザンザスは俺だ!!
剣帝を殺せたテメェならきっと気付いてくれるって信じてたぞ!!

「どっかから入り込んじまったのかぁ?」

ドカスがーーー!!

「ぎゃぁぁああああ!!」

鋭い爪がスクアーロの顔面を血で染めた。華麗に着地し、部屋を飛び出す。

「あらぁ?可愛いネコちゃんね」
「ルッスそいつ捕まえろぉ!」
「え?あっ、いやぁ〜ん」
「きもお゛ぉおい!!」

確かに。
まぁ奴の股下を通り抜けた俺も俺だったが。
とりあえずマーモンかDr.シャマルの元へ―――・・・・・。

「あれ?」

と思った時。俺の身体は床から離れた。そして目の前には。

「君、どっから来たの?」

綱吉の顔。

「う゛お゛ぉおーい・・・・・。客間で待ってろっつったろぉ・・・・・」
「や、盛大に悲鳴上げたお前が何言ってんの」

な、何で綱吉が此処に・・・・・?会う約束なんてしてねぇ筈・・・・!

「あぁ・・・・何かいねぇんだぁ。悪ぃなぁ、せっかく来てもらったのによぉ」
「ん・・・・今度のパーティーに誘おうと思ったんだけど・・・・。仕方ないか」

気付け綱吉!!前だ!!
今、テメェが抱いてる猫こそが俺なんだ!!

「にしてもこの猫何処から来たんだろ?」

何の為の超直感だ!?

「でも、おかしくな〜い?」

ほのぼのとした空気を破ったのはルッスーリアだった。

「あたしずっとトレーニングルームにいたけど・・・・ボスは通らなかったわよ?」

トレーニングルームと言うのはこの階にあるボスを含めた幹部専用の訓練室である。
主にスクアーロやルッスーリアがよく使い、下の階の客間と玄関に行く時は必ず通らなければならないのだ。

「気付かなかっただけじゃねぇのかぁ?それとも窓から炎で飛んだとか」
「気付かない筈ないわよ」
「炎を使った形跡もないみたいだね」

そりゃそうだ。俺は今此処に、こんな姿でいるんだからな。
3人が顔を見合わせる。

「困ったわ・・・・。マーモンちゃん、昨日から長期任務でいないのよ・・・」
「クロームも同行してるしね・・・・」

ジ・エンド・オブ・俺?

「と、とりあえずよぉ・・・・夜まで待たねぇか?夜まで待って、消えたまんまだったら総動員して捜そうぜぇ」
「そうね・・・・そうしましょ」

結果は見えてるがな。
ザンザスが思ったとおり、夜23時。
ヴァリアーは消えたボスを求め、夜の街を駆け巡るのである。



「はい」

ザンザスの目の前に置かれたのはミルクの入った皿。
スクアーロやベルなど幹部が部下を総動員させて駆ける間、ツナはザンザスの執務室で待機ということになったのだ。
そして彼らはザンザスが黒猫になっていることに気付いていない。

・・・・あ、意外とうめぇ。
こんなの食えるかと思っていた彼だが。
空になっていく皿と黒猫を見てツナは微笑んだ。

「・・・・・ザンザス、何処行っちゃったのかな」

屈んで黒猫の頭を撫でる。ポツリとツナが呟いた。

「俺ね」



「ザンザスが好きなんだ」




ポタ、と黒猫の頭に水滴が落ちる。皿に向けていた顔を上げた。

「素っ気無い態度も・・・・微妙な優しさも・・・・・分かり辛い愛情表現も・・・・みんな、好き」



ツナは涙を流していた。




「ッ・・・・・会いたい・・・・!」



「会いたいよ・・・・ザンザス・・・・・!」



ツナが黒猫を抱き締める。


「にゃ・・・・」


あぁそうか。
言葉を紡ごうとしてもそれは言葉にならない。

俺も好きだと。俺は此処にいると。

お前の気持ちを知った今だからこそ、言いたいのに


ツナがザンザスを抱き締める。ザンザスは流れる涙を一粒一粒舐め取っていた。

涙は、しょっぱかった。






「戻った・・・・・」

翌朝。
自分の身体を見てザンザスはほっと息を吐いた。
あるべき手、自分でも聞き取れる言葉。
恐らくツナが運んだのだろう、ザンザスは自分のベッドに寝ていた。
そして隣りにはツナ。
日々の疲れからか、猫のままだった自分を運んだ後眠ってしまったらしい。

「結局原因は何だったんだ・・・・・」

分からない。
けど、今日の朝はいつもの朝ではない。


「おい。・・・・・・起きろ、綱吉」


お前の気持ちを知った―――・・・・・・特別な朝。


ツナが歓喜の余り絶叫するまであと10秒。















Thank you for reading.

written by skylark 08.2.27.